【税理士受験期④】税理士試験2年目(法人税法)不合格体験記

とりあえずポップなビートで逃げ出したい
現実から遠く目を逸らしたい
ずっとずっと鳴り止まないでミュージック

ハマいく『ビートDEトーヒ』

こんにちは。税理士の北野です。
このブログは、こちらの記事の続きです。

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今回は、2023年(令和5年)、法人税法にあえなく不合格となった体験談をご紹介します。

前回に引き続き、今回も講談調でいかせていただきます。

目次

4カ月の迷い道

税理士試験というものは、また何とも受験生の心をかき乱す、厄介な仕組みになっておりまして。
試験は8月。
そして合格発表が、なんと12月。
予備校、大原の新しい講座が始まるのは9月でございます。

皆様、どうでございましょう。
この4カ月というもの、まさに生殺し。
8月の試験、3科目のうち、1つでも落ちていたらどうなる。
特にあの「消費税法」は、合格ギリギリの当落線上というやつでございます。
「もしも、もしもだ……あれが不合格であったならば、この4カ月、のうのうと法人税の勉強などをしている場合ではないのではないか?」
「かと言って、合格しているかもしれない。」
「合格(しているかもしれない)科目の勉強時間は無駄になるんじゃないか。」
「その時間を次の科目に充てねば、周りの者たちにドンドン置いていかれる。いやしかしもし、、」

ああでもない、こうでもないと、心は千々に乱れます。
法人税法の分厚いテキストを開いてはみても、頭の片隅には消費税法の理論がチラチラと……。
(あの条文、忘れてないだろうか)
(いやいや、ちゃんと合格しているはずだ)
(もし落ちてたら……)
結局、9月に大原の法人税法(WEB講座)は申し込み、カリキュラム通りに受講はしているものの、どうにもこうにも身が入らない。
集中力が続かない。

さて、令和4年12月、結果は、前述のとおり、3科目同時合格でございました。

「結果的に合格していたのだからよいではないか」そのようなお声も聞こえてきそうです。

しかし、この3科目合格という結果により、この男の弱い部分が出てしまうのでございます。

ガソリン切れ、そして慢心

さて、前回の一席で申し上げました通り、3科目合格までの流れというのは、まあ、見事なものでございました。
親父が病に倒れた。
この深い悲しみ、やるせなさを、「ええい、ままよ!」とばかりに全て机の上にぶつけまして、猛然と勉強に打ち込んだ。
その結果、1年で3科目合格という、なかなかの快挙を成し遂げたのでございます。

さあ、明けて令和5年。
「去年は3つも取ったのだ。今年は1つ。相手はただ1つと決まっておる。これならば、去年の半分、いや3分の1の力で事足りるだろう」。
この男の心に宿ったこの油断、慢心。
これが人間というものの、浅はかさでございましょうか。

しかも相手が悪うございました。その名も「法人税法」。
これが税理士試験の天王山。
ラスボスとも言われる科目でございまして、その学習量は他の科目を遥かに凌駕する。
個人的には、税理士試験とは法人税法の試験だ、とまあ、そのように考えているほどの強敵でございます。

これに加えて、もう一つ。
ただの慢心とも言えない厄介な問題が持ち上がります。

この男、前回の試験(令和4年8月)までは親父が倒れたことをきっかけに勉強をはじめ、いわば負の感情をエネルギーにして勉強に取り組んでいた部分がございました。

と申しますのも、病床にありました親父が、死の淵から生還し、めでたく退院と相成った。 こりゃあ、嬉しい。
それから、地元に帰ってきての新たな決意。
そういった経緯で生まれたエネルギーというものは、凄まじいものでございます。
いわば、不幸のガソリンを燃料にして突き進んだのでございます。

しかし、どうでございましょう。
人の心とは実に複雑怪奇なもの。
あの時の絶望、決意、そういった負の感情から生まれた凄まじいエネルギーは、時間が経つにつれて、まるで雪解け水のように、すーっと消えていってしまうのでございます。

よく講談や物語の世界では、親の仇、主君の仇と、何十年にもわたって復讐の炎を燃やし続ける人物が出てまいりますが、あれはあくまでお話の世界。 現実には、強烈な出来事も、歳月という名のヤスリにかけられて、徐々にその角が丸くなっていくものではございませんでしょうか。

一つの出来事で人が生まれ変わることはあっても、その熱量を未来永劫保ち続けるというのは、至難の業。
こうしてこの男、車で言えばガス欠状態。そして3科目同時合格による慢心。
だらだらと惰性で走っているような状態で、勉強を進めていたのでございます。

涙の『ビートDEトーヒ』

消えかかった心の火、ガソリン切れを、何とかせねばならぬ。
そう考えた男は、カンフル剤を求めます。
古今東西の偉人の物語に己を重ねようと、神田伯山の『中村仲蔵』の口演を聴いては「うーん」と唸り、
『ブルージャイアント』や『ルックバック』といった漫画を読んでは、無理やり己を奮い立たせておりました。

「奮い立たせていた」と言っちゃあ、聞こえはいいですが、やってることはYoutubeの閲覧と漫画読みでございます。
娯楽を自己研鑽として扱い、「これは有意義な時間の使い方なのだ」という免罪符を得て、享楽にふける。
この男の大学時代にも、周囲にはそういった人間がおりました。
脚本家や小説家といった物書き志望で、1日中アニメや映画を見ていることを“インプット”とのたまう人間が。

話を戻しましょう。

さて、この男が奮い立つためのカンフル剤。
所詮カンフル剤はカンフル剤。
その効き目は長続きいたしません。
そこで、さらなる奇策に打って出ます。
「本来、俺という人間は、しんとした無音の中でなければ集中できん性分だ。だが、今はそんなことより机に向かうのだ! 机に向かう時間を一分一秒でも増やす仕組みを作ろう!」
そうして、計算問題を解くときに限り、音楽を聴いても良い、という掟、いや飴を自らに与えたのでございます。

これがまあ、面白いもので。
Spotifyで流れる流行りの曲、時には趣向を変えてクラシックの名盤やら、洋ロックやらを聴きながら、カリカリカリカリ、ペンを走らせる。
時に口ずさみ、時に熱唱にまで発展しながら勉強を進めるのは、なかなかどうして、悪くない。

そんな、とある日でございます。
いつものように法人税法の計算問題を解いておりますと、イヤホンから軽快な曲が流れ出しました。
ハマいくの『ビートDEトーヒ』。

“とりあえずポップなビートで逃げ出したい 現実から遠く目を逸らしたい”

この一節を、何気なく口ずさんだ、その時でございます。
自分でも訳が分からぬままに、目から涙がポロポロポロポロ……。
止まらない。
(ああ、そうか。俺は、逃げ出したいのか。この現実から、遠くへ、目を逸らしたいのか)
時期的には、コロナが5類に分類され、皆がマスクを外し始めたときです。
SNSを覗いてみると、友人たちが都会で楽しそうに飲んだり遊んだりしている写真が飛び込んできます。
地元に帰り、遊びの時間もなく勉強することは覚悟しているつもりでおりましたが、心の奥底は悲鳴を上げておったことに、この歌で気づかされたのでございます。
(逃げ出したい。だが、逃げる場所などどこにもない。この現状を変えるには、このペンで合格を勝ち取る以外に道はないのだ!)
そう己に言い聞かせ、涙を拭い、またリズムに乗って勉強を続ける。

いつしかこの『ビートDEトーヒ』は、やる気が出ない時に己を奮い立たせるためのお気に入りの一曲と相成りました。
机に向かうのが億劫な日には、「とりあえず、ポップなビートで逃げ出したい♪」と大声で歌いながら机に向かう。
傍から見れば、言行不一致も甚だしい、実に珍妙な光景でございます。

余談でございますが、この歌に出てくる濱家さんのラップ。
最初は「これ、いるんかいな」と思っておりましたが、聴き込むうちにだんだん味が出てくる。
今ではあのラップパートも悪くないな、と思うようになりました。

とはいえ、でございます。
そんな風に無理やり机に向かい、ペンを走らせても、一向に成績は安定しない。
結局、音楽を止めて、静寂の中で挑むも、一度狂った歯車は、そう簡単に元へは戻りませぬ。

法人税法という名の峻嶺

さて、そもそもこの男が挑んでおります「法人税法」という科目が、いかほどの難物であったか。

まずは計算問題。
これが、簿記論や財務諸表論といった、これまでの相手とは、まるで作りが違うのでございます。
簿記論なんぞは、ただ答えの数字が合えばそれで宜しい。
ところがこの法人税法の計算問題は、なぜ、その答えに至ったのか、その計算の過程、筋道を、税法の条文に沿った形で答案用紙に書かねばならない。
問題文から大事な情報を一つ一つ拾い上げ、法律の条文に照らし合わせ、
「私は、これこれこういう理由で、このように計算いたしました。いかがでございましょう!」
と、答案の上で己の正しさをアピールせねばならんのです。

例えば、減価償却一つを取りましても、話がややこしい。
圧縮記帳があるのかないのか、損金経理か、はたまた積立金経理か。
その違いで解き方がガラリと変わってしまう。
こんなものを、音楽なんぞを聴きながらやっていては、たちまち足元をすくわれる。
拾わねばならぬ大事な宝を、ポロリ、ポロリと取りこぼしていく。
とにかく、一瞬たりとも気の抜けぬ、凄まじい集中力が試される試験なのでございます。

これに加えて、皆様どうでしょう。
普通、試験勉強と申しますものは、一通り全体を学んだ後、それを何度も何度も繰り返して、知識を盤石にしていくものでございましょう。
ところがこの法人税法、4月になっても、いやいや5月になっても、「はい、これも覚えてください」「はい、これも新しい論点ですよ」と、次から次へと新しい知識が、まるで湧き水のように出てまいります。
ようやく全ての範囲を学び終え、さあ、いよいよ総復習だと腰を据えられるのが、なんと6月に入ってから。
8月の本番まで、残すところ、たったの2カ月しかございません。
一度全体をさらってから復習するという、この男のやり方とは、とことん相性が悪い。
「もう勘弁してくれ!」と叫びたくなるのをぐっとこらえ、結局、一つ一つの解き方はどうにか頭に入れたものの、完璧からは程遠い。
いわば、付け焼き刃のような状態で、本番へ臨むことと相成りました。

さあ、計算がこれならば、もう一方の「理論暗記」はどうであったか。
これがまた、輪をかけて、鬼のような所業でございました。
以前、この男が薄氷の勝利を収めた消費税法。
その理論の冊子と比べまして、この法人税法は、実に3倍もの分厚さを誇る。ページにして200ページ以上。
この膨大な文章を、ひたすら頭に叩き込んでいくのでございます。

例によって、部屋の中を獣のようにぐるぐると歩き回り、ぶつぶつと呪文のように唱え続ける。
湯船に浸かっては、のぼせるのも構わずに暗唱を試みる。
しかし、覚えては忘れ、覚えては忘れ、まるで、ざるで水をすくうが如し。
なかなか頭に定着いたしません。

勤めておりました事務所には、試験前の休暇制度などという、有難いものは一切ございません。
日中は仕事に追われ、夜と休日に、この化け物と向き合うしかないのでございます。

そんな状態で迎えた、7月の大原全国統一模試。
ここでこの男、なんと上位3割に入るという、そこそこの成績を上げてしまいました。
「おお、これは望みがあるやもしれん」 そう思ったのが、運の尽き。
この中途半端な好成績が、かえって仇となりました。
心のどこかで「これだけ出来れば、何とかなるだろう」という油断が芽生え、最後の追い込みに、どうにも力が入らなくなってしまったのでございます。

本番の惨劇と不合格通知

この税理士試験というもの、まことに恐ろしいのは、これが「なまもの」だということでございます。
理論の冊子、その9割を完璧に覚えていたといたしましょう。
しかし、本番で残りの1割、その覚えていないところから出題されたならば、もうお手上げ。大いに不利となる。
逆に、半分しか覚えていなくとも、その覚えた範囲から出題されたならば、これほど幸運なことはない。すらすらと答案が書ける。
まさに、運不運が大きくものを言う世界でございます。

さあ、この男はどうであったか。
理論については、「Aランクは、まあ、そこそこ書ける。Bランクは、ちょこっとだけ。Cランクに至っては、ええい、知らぬ!」という状態でございました。完璧に書ける理論は、ほんのわずか。

そして迎えた、8月の本番。
案の定、出題されたのは、完璧には覚えていない、うろ覚えの理論でございました。
答案には、何とか格好をつけようと、曖昧な言葉を書き連ねるのが精一杯。
そして、得意なはずの計算問題。焦りと動揺からか、ミスを連発。
あろうことか、「5月決算」の会社の問題を、「3月決算」だと盛大に勘違いして解き進めるという、目も当てられぬ大失態。
結果は、もうお分かりでございましょう。
理論は崩れ、計算も崩れる。まさに総崩れ、惨憺たる有様でございました。

そして運命の12月。
結果は予想通りの「不合格」。
2年前、泥沼に浸かり、ゆるりゆるりと回転しだし、一気に激しく加速したこの男の車輪も、令和5年、ここにきてピタリと一時停止でございます。

静かに燃え続ける

さて、皆様。ここでこの男、力尽きてしょげ返ったかと思いきや、さにあらず!
この「不合格」という三文字が、不思議なことに、心の奥底にあった消し炭に、再び火を点けたのでございます。
メラメラッと、静かな闘志が湧いてきた。

「これだ!この悔しさだ!」
しかし、今度の炎は、令和4年の、あの不幸のガソリンで燃え上がった大火事とは訳が違う。
あの炎は、確かに激しかった。
しかし、試験が終わった後には、燃え尽き症候群という名の、白い灰しか残らなかった。
一過性の炎では、この長丁場は戦えぬ。

これからは、静かに、そして確かに熱く、燻ることなく燃え続けねばならぬ。
まるで、備長炭のように。
あるいは、消し忘れたコンロの青い炎のように。
半永久的に冷めることのない未来の湯たんぽのように。

静かなる、しかし決して消えることのない闘志の炎を胸に、この男は再び立ち上がったのでございます。

さて、この熱は、来年の合格へと届きますかどうか。
この続きは、また次の一席で。

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