【税理士受験期②】覚悟を決めろ!帰郷前夜の迷いと決意

君の欲しいものは、何ですか 
僕の欲しかったものは、何ですか

ー吉田拓郎『流星』

こんにちは。税理士の北野です。
佐世保市・佐々町・松浦市・平戸市・旧北松地区を中心に、地域のできないを減らし、できるを増やす をミッションとして日々活動しています。
このブログは、こちらの記事の続きです。

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さて、前回までに、父親が倒れたことや仕事の負担でメンタルがボロボロになった私が、簿記の勉強をはじめ、日商簿記2級に合格するまでの話を書きました。今回は、その日商簿記2級に合格したあとの迷いと、税理士試験を受験する覚悟について、書きたいと思います。

「税理士受験記」というブログなのに「いつ税理士試験の勉強をはじめるんだ!」と思われるかもしれません。

しかし、いま振り返ってみると、税理士試験に短期間で合格するかどうかというのは、「勉強に取り組む前の覚悟」が大きく左右するように思います。

断言しますが、なんとなく(税理士試験の勉強してみようかな~)(1年で1科目ずつとれば5年で合格じゃん)と軽い気持ちで税理士試験の勉強をはじめると、地獄を見ます。

税理士試験は、働きながらだと5科目合格するのに平均9年かかると言われています。
1年で1科目ずつ取ろうと思っても、社会人の場合は、数年の間に家庭環境の変化やライフイベントの発生、仕事環境の変化などもあるでしょう。
当初計画していたとおりに5年間勉強を継続できるなんてことはほぼ不可能です。
「4科目までは順調に取れたんだけど、最後の1科目が10年以上取れないままでいる」なんて話も聞いたことがあります。
ただ勉強時間を浪費して、(もっと別のことに時間を使うべきだった。。)と後悔する可能性もあります。

これから試験勉強を始める人に対して、あまりネガティブなことを言って不安にさせるべきではないかもしれません。
しかし、後悔しないため、また人生を無駄にしないためにも、覚悟を持つことの重要性についてご理解いただければと思います。

前置きが長くなりましたが、私の税理士受験記を続けさせていただきます。

目次

簿記2級には受かった。でも、頭の靄は晴れない。

前回の記事で書いた通り、私は父が倒れたことや仕事のプレッシャーで完全に心が折れてしまい、先の見えない不安から逃れるように簿記の勉強を始めました。

仕訳を理解し、P/LとB/Sを埋めていく作業は、まるでパズルのようで、無心で取り組むことができました。頭が働かない時は、ひたすら仕訳を書き写しました。その甲斐あって、およそ2か月で日商簿記2級に合格することができました。

一つの結果が出たことで、少しだけ自信を取り戻した私は、次に税理士試験の勉強に進もうと考えました。
父が倒れた後、地元の税理士の方にお世話になる機会があり、税務や相続、事業承継といった仕事に興味を持ったのは事実です。
地元に貢献できる、やりがいのある仕事だと思いました。

しかし、心のどこかでは、まだスッキリしない感覚が残っていました。

「本当にこのまま税理士試験の勉強に進んでいいのだろうか?」
「この選択を、将来後悔しないだろうか?」

目標を決めて勉強に打ち込んでいるはずなのに、頭の中にはずっと靄(もや)がかかっているような状態でした。
それは、この「税理士になる」という決断が、心の底からのものではなく、「将来の巨大な不安から逃れるための、手っ取り早い解決策」でしかなかったからだと、後になって気づくことになります。

「それ、お前が本当にやりたいことか?」

2021年の夏、父の退院に合わせて、私は介護休業をとり実家に帰省しました。

父は、脳梗塞の後遺症で左半身に麻痺が残り、高次脳機能障害も抱えていました。
言葉がうまく出てこなかったり、感情のコントロールが難しくなったりと、以前の父とはまるで別人のようになってしまった姿を目の当たりにし、改めて厳しい現実を突きつけられました。

そんな中、今後のことについて兄と話す機会がありました。 私が「税理士になろうと思う」と伝えたときのことです。
兄は、真剣な顔で私にこう問いかけました。

「本当にそれがしたいならいいけど、安易に決めたら不幸になるぞ」

続けて兄に「で、本当にその道に進みたいと思ってんの?」と聞かれ、私は「わからない」としか答えられませんでした。

当時、もし他の誰かに同じことを言われても、「知ったような口をきくな」と反発していたかもしれません。
しかし、目の前にいるのは、私と同じように父の状況を目の当たりにし、仕事や将来のことで悩み、これから決断をしようとしている人間です。
兄の言葉は、私の心の奥に突き刺さりました。

この一言が、私に自分自身と徹底的に向き合うきっかけを与えてくれました。

自分は何を志向しているのか?ビビンバを整え直せ

兄の言葉を受け、私はもう一度、自分の心と向き合うことにしました。
親の期待や、将来への不安、そういったものを一旦すべて脇に置いて、「自分は本当はどうしたいのか」を考え抜くことにしました。

それまでの私は、頭の中がごちゃごちゃしている状態でした。
父の介護、自分の仕事、将来のキャリアプラン…様々な問題が混ざり合い、それはまるで、一度ぐちゃぐちゃに混ぜてしまったビビンバのようでした。

そのビビンバを、もう一度「米」「肉」「もやし」「ナムル」と、一つ一つの具材に分け、整理し直すような作業を始めました。

「自分はどんな性格か?」
「自分は何を志向しているのか?」
「自分は本当は、東京にいたいのか。地元に帰りたいのか。どうしたいのか。」

就活のときも自己分析というものをやりましたが、思えば実に表面的なものでした。

私はずっと自分が何を求めているのか、分かりませんでした。
大概のことは短時間でコツを掴んで平均点以上のことができました。
ただ、とびっきり得意なものがあるわけでもなく、特に苦手なものもない。「オール4症候群」といえるようなものでした。
わりかしなんでもできるが故に、自分は何に向いているのか、自分は何をやりたいのかが分かりませんでした。
はっきりとした人生の軸や指針のようなものが定められませんでした。
それでも流れるままにそれなりの大学に入って、それなりの会社に入ることができました。

そんな成り行き任せだといつか後悔するかもと思い、もう一度自己分析というものを徹底してやってみました。
これまでの人生を振り返り、自分はどんな性格か。自分は何を志向しているか。
ひたすら自分の内面と向き合いました。

特に「自分は何を志向しているか」という問いには発展がありました。
「何をやりたいか」でも「何になりたいか」でもなく、「何を志向しているか」。
「何をやりたいか」、「何になりたいか」という問いには、1単語で答えることができます。安直な回答や考えになりがちです。
しかし「何を志向しているか」という問いには1単語では答えることができません。
心の奥の志の向きを言語化するしかないわけです。

考え抜いた結果、私の人生には以下の3つの要素が必要だという結論に至りました。

  1. 安寧:読書をしたり、人を気遣ったりできるだけの、心の余裕が欲しい。
  2. ユーモア:滑稽さや小気味の良さを大事にしたい。おもしろが欲しい。
  3. 自己実現:目標を立て、それを達成することで、脳汁を出したい。

恥ずかしいですが、これが私の心のコンパスでした。
そして、このコンパスに照らし合わせて将来を考えた時、ぼんやりと道が見えてきました。

その結果、やはり税理士になろうと思いました。

しかし、以前とは全く意味合いが違います。
不安から逃れるための「手段」ではなく、自分の価値観を実現するための「目的」として、税理士という仕事に心から魅力を感じたのです。

地元企業の経営に関わり、事業承継や相続の問題を解決する。
税理士に軸足をおいたうえで、関連事業にチャレンジしてみる。
それは、自分の能力や性分にも合っているし、何より「面白そうだ」と心の底から思えました。

覚悟が決まると、靄は晴れる

「よし、俺は税理士になる。」

そう決意した瞬間、ずっと頭の中に居座っていた靄が、すーっと晴れていくのを感じました。

将来という巨大なキャンバスの一部分の解像度がぐっと高まったような感覚。
すると不思議なもので、まだ何も描かれていない未知の領域に、ワクワクするような興味が湧いてきました。
空白部分には、大きな絵が描けるような気がしました。

誰かに「本当に税理士になりたいの?」と聞かれても、今度は自信を持って「なりたい」と答えることができます。

この「覚悟」が決まってからは、人生のどの期間よりも勉強へのモチベーションが高まりました。
やればやるほどゴールに近づいていく感覚が心地よく、ひたすら問題を解いているうちに、あれだけ私を苦しめた頭の靄は、いつの間にか完全に消え去っていました。

時系列を改めて

勉強の記録と心身の状態の推移などについての話が混ざっているため、改めてここまでの時系列を整理します。

●2021年1月
親父が脳梗塞で倒れる。→地元に帰ることについて考え始める。

●2021年2月 
地元に戻って、仕事は何をしようか。→ここで「税理士」という選択肢が浮上。
地に落ちた自信とメンタルを回復させるために、まずは小さくても確実な成功体験が欲しい。→簿記の勉強を開始。

●2021年5月
簿記2級合格(勉強は淡々と進めることができた)。
その後、このまま税理士試験の勉強に進んでいいのか迷う。
とりあえず、8月の税理士試験には間に合わないと思ったので、11月に試験がある簿記1級の勉強を始める。
なお、この段階では将来の進むべき道を決めきれず、モヤモヤしながら簿記1級の勉強をしていた。

●2021年9月
親父が退院。介護休業を取得し、東京から地元に一時帰省する。
兄の言葉をきっかけに、改めて将来の進むべき道について、徹底的に考え直す。

●2021年10月
上述したような思考を経て、税理士試験に挑戦することを決意。
3年5科目合格を目標とする。
勉強方法について、調査をした結果、資格の大原のWEB通信講座の受講を決定。
簿財2科目合格パックと消費税法の2021年9月開講コース(2022年8月試験)を申し込む。→51万円を支出。
簿記1級の勉強を中断し、税理士試験3科目(簿記論、財務諸表論、消費税法)の勉強を始める。

●2021年11月
簿記1級を受験。不合格。

いざ、帰郷

覚悟が決まれば、行動は早いものでした。
2021年10月に資格の大原のWEB通信コースを申し込み、それから食事・睡眠・仕事以外はほぼ勉強という生活を始めました。

それから 2022年の年明け、私は家族全員が揃った場で、改めて自分の決意を伝えました。

「今年(2022年)の2月末で今の仕事を辞める。3月には佐世保に帰ってくる。4月からはこっとの税理士事務所で働きながら、試験勉強をする。親父の介護も手伝う。」

誰かに命じられたわけでも、兄弟間で役割を押し付けられたわけでもありません。
自分の意志で、自分の人生を選択したという、はっきりとした感覚がありました。

「世話になるな…」

父がかすれた声でそう言ったのを聞き、私の東京での8年間の生活が終わり、新しい道が始まることを実感しました。

ぬかるみにはまり、泥だらけだった車輪が、ゆっくりと、しかし確実に、再び回転し始めた瞬間でした。


今回は、税理士試験の勉強を本格的に始める前のことについて書かせていただきました。
これまでほとんど誰にも語られることのなかった内容です。
とある物事の背景について多くを語ることは、あるいは紳士的なことではないかもしれません。

私は当時、親父が倒れて、将来について迷っているとき、次のような感覚をもっていました。

自分はこのように大変な経験をしているのだから、それに見合う成功の特権が自動的に与えられるはずだ。

しかし、このような考えは実に安直で、大きな勘違いだったと気づきました。

「挫折→奮起→成功」というストーリーにおいて、ドラマなどでは地味なパートはさらっと流されがちです。
ですが、現実には、何かを成し遂げようと思えば、どうしようもなく地味な一歩を毎日積み重ねるしかないわけです。
(「税理士試験に合格したくらいで、何かを成し遂げた気になってんじゃねえ!」と言われたら、それはそうです、、)

このような背景を赤裸々に語ることが、誰かにとって意味のあることであれば、幸甚です。

次回は、本格的に税理士試験の勉強をスタートさせた頃の話を書きたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました

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