中島みゆき『地上の星』について語ろう

※当記事には、筆者の主観が多分に含まれていることをご承知おきください。

人に「中島みゆきの一番好きな曲は何ですか?」と尋ねたら、おおよそ以下のような答えが返ってくる。

若者   :『糸』好きです!あと『ファイト!』も。
おじさん :『時代』が名曲だよ。
おばさん :わたしはやっぱり『悪女』かな。
老人   :『世情』を聞け。
小学生  :中島みゆき・・?

さて、このように挙がってくる曲名を見てみると、あることに気づく。
『地上の星』と答える人が、意外なほど少ないのだ。

『地上の星』といえば、NHK『プロジェクトX』のテーマ曲として広く知られており、これを知らない人はほとんどいないだろう。
世代を問わず耳にしたことのある、極めて知名度の高い一曲だ。

それなのに、なぜ「一番好きな曲は?」という問いに対して『地上の星』と答える人がほとんどいないのだろうか。

筆者がなぜ、この記事を書こうと思ったか。
それは自分自身が『地上の星』を最近まで過小評価していたことに気づいたからだ。

改めてちゃんと聴き直してみて、初めてその歌詞に込められた深い含意に気づかされた。
そして「これは名曲中の名曲だったのではないか」と思い直した。



筆者は平成8年(1996年)3月生まれ、現在29歳である。

この世代にとって、おそらく最初に出会った中島みゆきの曲は『地上の星』と『ヘッドライト・テールライト』だろう。
プロジェクトXを通じて自然と耳に入っていたはずだ。

その後、ドラマ『Dr.コトー診療所』で『銀の龍の背に乗って』を知り、
テレビ番組やCMで『空と君のあいだに』や『ファイト!』を知る。
『糸』は2015年ごろの再ブームをきっかけに知る、というのが平均的な流れではないだろうか。

筆者もご多分に漏れず『糸』を聞いたとき(なんだこの名曲は。。)と感じた。
そこから『時代』とか『悪女』とか『わかれうた』を履修することとなった。
(ちなみに筆者が好きなのは、『ひとり上手』と『狼になりたい』である。)

そんな中で、最初に聴いたはずの『地上の星』だけが、なんとなく敬遠されていた。
歌詞がやや羅列的で、中島みゆきの真骨頂である“心情の吐露”よりも“情景のスケッチ”に寄っていたことも理由かもしれない。
それにちゃんと聞くにしてはちょっと有名すぎた。

だが、最近『地上の星』のある部分の歌詞を聞いて、「あ、これってそういう歌だったのか!」と気づいた。

それは、サビ前の以下の部分である。

地上にある星を誰も覚えていない
人は空ばかり見てる

(この歌詞って、要は、
「無名やけど、この人がやってるのは凄いことなんやで。」
「お前らみんな、スター的な存在ばっかりに目がいっとるけどな。」
ってこと?
まさにプロジェクトXにピッタリの曲じゃないか!)

この瞬間に、筆者は『地上の星』の主題をようやく理解したのだった。
それは、無名の人間への讃歌だということだ。

さらに、2番の歌詞に出てくるこの一節も、非常に印象的である。

名立たるものを追って
輝くものを追って
人は氷ばかり掴む

名立たるものは名声、輝くものは富。
それらを追って氷という空虚なもの、掴んでも溶けて消えるもの、人はそんなものに執着している。

筆者はそういう風に解釈した。
なんとすごい詩かということがわかる。

このテーマは、現代の曲にも通じている。
たとえば、竹原ピストルの『よー、そこの若いの』には、こんな一節がある。

例えば芸能人やらスポーツ選手やらが
特別あからさまなだけで
必死じゃない大人なんていないのさ

これも非常に印象的な歌詞で、紅白でも歌われた名曲だが、やはり作詞センスは中島みゆきに軍配があがるだろう。

アメリカの作家パトリック・オロークも以下のような言葉を残している。

みんな地球を救いたがる。
でも、誰もおふくろの皿洗いを手伝おうとはしない。

少し距離はあるが、趣旨としては『地上の星』と重なる部分がある。
人は「遠くの崇高なこと」ばかり追い求めがちで、「近くの地味だけど大切なこと」に目を向けない、という本質を突いている。

ここまで紹介した歌詞以外にも、

風の中の昴
砂の中の銀河
みんなどこへ行った
見送られることもなく

といった一節には、どのような解釈が成り立つだろうか。
そうやって思いを巡らせてみるのも、また一興である。

あるいは、「“地上の星”=“無名のスター”って、普通に聴けばわかるやん」とツッコむ人もいるかもしれない。
それでも全然いい。

何気なく聴き流していた一節が、ある日ふと、胸に静かに落ちてくることがある。
それは、経験かもしれないし、年齢かもしれないし、偶然のタイミングかもしれない。

気になった人は、ぜひ一度、改めて『地上の星』を聴いてみてほしい。
きっと、昔とはちょっと違う曲に聴こえるはずだ。

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