【税理士受験期⑤】税理士試験3年目2科目(法人税法、相続税法)合格体験記

Those who would give up essential liberty, to purchase a little temporary safety, deserve neither liberty nor safety.
(本質的な自由を諦め、一時の微かな安寧を求める人間には、自由も安寧も訪れない)

ーベンジャミン・フランクリン

こんにちは。税理士の北野です。
このブログは、こちらの記事の続きです。

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今回で税理士受験期、最終回となります。
引き続き、講談調でいかせていただきます。

目次

消し炭に風を仰いで

さあ、前回までのおさらいと参りましょう。
人生を賭けた税理士試験、その中の総大将、法人税法に「不合格」を突きつけられました、この男。
心がポッキリ折れてしまうかと思いきや、さにあらず。
心の奥底、まるで燃え尽きたかのように見えた消し炭に、この「不合格」という一陣の風が吹きつけた。
そして、赤い火がチロチロと熾り始める。
やがて、メラメラと、静かなる闘志の炎が燃え上がったのでございます。

「これだ!この悔しさだ!」

しかし、今度の炎は、以前の、不の感情をもとに燃え上がった大火事とは訳が違う。
あの炎は、確かに激しかった。
天をも焦がす勢いで、1年目で3科目合格という結果をもたらした。
されど、試験が終わった後には何が残ったか。
燃え尽き症候群という名の、燻ぶった消し炭が残っただけでございます。
一時の激情で乗り切れるほど、この税理士試験は甘くはありません。

「これからは、静かに、そして確かに熱く、燻ることなく燃え続けねばならぬ」

静かなる、されど決して消えることのない闘志の炎を胸に、この男は再び立ち上がるのでございます。

幸福のガソリン

さて、不合格の通知を受け取りましてから、ほどなくしてのこと。
この男、静かに、されど永久に燃え続ける、世にも珍しい燃料を手に入れるに至ります。

不幸のガソリンが長続きしないことは、よく分かった。
ならば、持続するようなエネルギーはどうしたら生まれるのか。
簡単なことだ。
「不幸のガソリン」が駄目なら「幸福のガソリン」である。

実に単純明快、まるで子供の問答のようでございますが、物事の真理とは、かように簡単なものなのかもしれませぬ。

「その幸福のガソリンとは何だ」
男は考えます。

「幸福とは、すなわち『満たされること』であろう」
そしてまた考えます。
「『心が満たされる』と言うと、どうも上品すぎるわな。いかん、いかん。」
「もっと下世話に、もっと正直にならねば。」
「例え品性を欠いてでも『心』を『欲望』と置き換えよう。」
「『心を満たしたい』と考えるより『欲望を満たしたい』と考えるのだ。」
「『欲望を満たすために内側から湧き出てくるエネルギー』、それこそが『幸福のガソリン』である。」

なるほど納得でございます。

さてそれからというもの、男はひたすらに妄想にふけります。
試験に合格した後の己の姿を、ありありと思い描く。

「『すごい!』『天才!』『有言実行!』『誰でもできることじゃねぇ!』なんてことを言われチヤホヤされたい」
「税理士として独立して、人生をさらに面白くしたい」
「そして何より、この環境から解放されて、有り余るエネルギーを別のことに使いたい」

特にこの「チヤホヤされたい」という欲望は、実に強烈なガソリンでございました。
承認欲求というものでしょうか。
余談ですが、実際に世に出てくる人間は、有り余るほどこの欲求を抱えているものでございます。
誰しも聖人にあらず。結果が出てから、後付けで大義名分を加え、人はその品性を保つものです。

さて、それからこの男は、改めて独立した後の己の姿、合格した後の自由な人生、そういった妄想にふけるわけでございます。
すると、ワクワクが止まらない。
腹の底から、またもやフツフツと、勉強への意欲が湧き出てくるんでございます。
一時の快楽より未来を見据え、カリカリカリカリ勉強を進めていきます。

かの有名なベンジャミン・フランクリンの言葉、

Those who would give up essential liberty, to purchase a little temporary safety, deserve neither liberty nor safety.
(本質的な自由を諦め、一時の微かな安寧を求める人間には、自由も安寧も訪れない)

この言葉が、男の今の考えと見事に合致しました。
男はこの文句を紙に書き、勉強机の真正面に、ペタリと貼り付けたのでございます。

緩まぬ土台を築け

さあ、ガソリンは手に入れた。
しかし、このエネルギーを一過性のものにせぬため、男はもう一つの工夫を凝らします。
と申しますのも、一つの欲望、一つの土台だけでこの莫大なエネルギーを支えていては、その土台が崩れた途端、全てが瓦解してしまう。
脆いものでございます。

例えば、仕事中などに(帰ったら真っ先に机に向かって勉強しよう)と誓いを立てる。
しかし、いざ帰るとスマホをいじってしまい、予定通り事が進まない。
皆様もご経験がおありのことかと存じます。

そこで男は考えた。
「そうだ、土台を一つにしちゃならん。土台は複数、3つか4つ用意するのだ

すなわち、「チヤホヤされたい」という欲望の土台、「独立して面白い人生を送りたい」という土台、「試験から解放されて自由な時間が欲しい」という土台などなど。
「エネルギーを保つための理由」をもとに、三角形、四角形の頑丈な土台を築き上げますれば、一つの土台が揺らいだところで、他の土台がガッシリとエネルギーを支えてくれる。
そして、そのイメージを常に心の中に保持しておく。
すると、モチベーションなどに左右されることはございません。

さらにこうしてエネルギーを保ったまま勉強を続けておりますと、ある時、スッと、不思議な領域に入ることがある。
世に言う「ゾーン」というやつでございましょうか。
もはや、勉強が苦ではない。むしろ、「勉強のご褒美は、さらなる勉強」という境地に達するのでございます。
これもまた、静かに、されど永続的に燃え続ける性質のものでした。

迷いなき4か月

さて話は前後し、令和5年、西暦で申しますと2023年。
前の一席で申しました通り、前年は合格発表までの4か月、3科目受かっているか否かで、気が気でない。
法人税法の勉強にも、どうにも身が入らなかった。

しかし、今回は違う。 迷いは、一切ございません。
何せ、自己採点の点数は、予備校が出した合格予想ラインより、遥か10点も下でございましたから。
当落線上にいる場合とは異なり、晴れやかに勉強できるものです。

9月に入るやいなや、男はすぐに申し込みを済ませます。
「法人税法、経験者完全合格コース」
そして
「相続税法、初学者一発合格コース」

法人税法と相続税法の2科目同時受験を志願した。
この二つを同時にやるとなりますと、その暗記量はまさに鬼畜の所業。
常人であれば、見ただけで気を失うような分量でございます。
しかし、「3年で合格する」という己との約束がある。
男は敢えて、この茨の道へと踏み出したのでございます。

はじめての相続税法

さて、相続税法というのはどのような科目か。
これがまた、一筋縄ではいかない。
学習量そのものは法人税法の7割程度ですが、これを合格するのが、非常に難しい。
なぜかと申しますれば、周りの受験生が、とんでもねぇ手練ればかりなんでございます。
3科目、4科目と合格してきた猛者たちが、最後の仕上げとばかりに集まってくる。
幾度も税理士試験という修羅場をくぐり抜けてきた、いわば歴戦の勇士たち。
その中で上位10%に食い込むというのは、まさに至難の業。
されど、相続税法、その内容が面白い。
男の知的好奇心を大いにくすぐった。
財産評価の計算方法や、相続の手続き方法などをひたすら頭に叩き込んでいきます。

二度目の法人税法

一方の法人税法。
2年目だからとて、決して楽ではございません。
一度覚えたはずの知識が、ポロポロと抜け落ちていく。
200ページを超える理論の冊子を、ただ覚えるのではない、体に染み込ませ、定着させ、事例問題にも対応できるようにせねばならん。

これらのことを、昼間はフルタイムで働きながら、夜と週末の全てを捧げて、やり遂げていく。
成績は安定せず、一進一退といった状態でございました。
それでも、ひたすら問題を解き、理論を覚える。
計算はミスが出なくなるまで、理論はすらすら暗唱できるようになるまで、何度も何度も繰り返す。

停滞した車輪がゆるりと回転しだし、加速していく。
それからはもう止まらない。
スピードを維持したまま、ゴウゴウと音を立てて回り続けるのでございます。

そして、時は満ちた。
2024年8月7日、3年目の税理士試験本番を迎えるのでございます。

あの日のやよい軒にて

さて、ここで少し、噺の調子を変えましょう。
時が6年ほど遡ります。この男がまだ大学4年生の頃。
場所は学生の街、高田馬場にございます「やよい軒」。
男は一人、しょうが焼き定食を食っておりました。
白飯のおかわり自由が嬉しい。

その時、隣のテーブルに、いかにも大学1年生といった風情の、男女二人組が腰を下ろした。
女の子の方は、溌剌として、笑顔が愛らしい。
男の方は、前髪が重ためで、冬になりますと、いかにも白いタートルネックのセーターなんぞを着ていそうな、そんな青年でございます。

「ねえ、佐藤くんて、公認会計士の勉強してるらしいよ」
女の子が、キラキラした目で言います。
「ふーん」青年は、つまらなそうに相槌を打つ。
「凄いよね。なんか早稲田に落ちたのが悔しくて、『こっから会計士に受かって取り返す!』って頑張ってるんだって。公認会計士って、めっちゃ難しいんでしょ?」 という女の子の言葉に
「まあ、受けるだけなら誰でもできるからな」と青年が返した。

「まあ、受けるだけなら、誰でもできるからな」
この一言を発した青年の心が、当時のこの男には、手に取るように分かりました。
(ああ、この青年はこの女の子に気があるのだろう)
(そして青年は佐藤くんが凄いと言われるのがあまり面白くないのだろう)
(なぜなら、この青年はたぶん早稲田で佐藤くんは早稲田に落ちたのだから)
さて、その自分より下と思っている佐藤くんを女の子が凄いという。
まだ結果も出していない、「頑張っているらしい」という、ただそれだけで。
この嫉妬にも似た感情が、「まあ、受けるだけなら、誰でもできるからな」という言葉になったんでございましょう。
隣のテーブルで、そのような男女の会話が耳に入ってきたこの男。
当時は特に気に留めるようなことはございませんでした。

しかし今。
税理士試験という、険しい山登りをしている今。
ふと、このやよい軒での一幕を思い出し、ハッとする。
あの青年の、あの言葉。
あれは、かつての自分自身ではなかったか。
人を「意識高い系(笑)」などと嘲り、努力する者を素直に認められなかった、あの頃の自分と、そっくり同じじゃねぇか。

もし、あの時の自分が、あの青年の立場であったなら。 間違いなく、同じことを言っていただろう。
いや、もっと意地の悪いことを言ったかもしれねぇ。

今なら分かる。あの青年が言うべきだった言葉は、たった一つだ。
「分かる。ほんとに佐藤は凄い。周りが大学に入って浮かれて遊んでる中で、将来を見据えて勉強に打ち込むなんて、なかなかできることじゃない。俺も見習いたい。」 こう言えていたら、どれだけ格好良かったことか。
やよい軒の青年が、今頃、大人になり、あの日の佐藤くんを素直に認められる人間になっていることを、男は願うばかりでございます。

隣でしょうが焼き定食をかっ込んでいた男は、数年の時を経て、税理士試験の勉強を始め、それが終わるときに、こう思うのでありました。

(佐藤くん、あんたは、すげえよ……)

時は流れ、2024年12月。
その男のもとに、一通の封書が届きます。

中には、「合格証書」の文字が、燦然と輝いていたのでございます。

結びの一席

さて、これにて一件落着、とは参りません。
税理士試験に合格したと申しましても、これはあくまでもスタートライン。
これから税理士登録を済ませて、晴れて税理士となる。
2025年の春には登録を完了させ、5月には独立開業と、男が当初立てた計画は着々と進んでおります。
(しかし、実際には税理士試験に受かったくらいでチヤホヤされるなんてことはなかったのでございますが、、)

人生という、あまりにも巨大なキャンバス。
空白部分に、何を描くか。それを決めるのに随分と時間がかかりました。
税理士という資格を得、キャンバスの一部の解像度が、グッと高まった。
さて、手に入れた筆で、これから余白にどんな絵を描こうか。
どうせ描くなら、大きい絵を描きたい。

まずは、この長崎の、わけても県北の地を盛り上げたい。
「長崎だからできない」を減らし、「長崎だからこそできる」を増やしていきたい。

東京から地元に帰ってきてからの3年間に思いを馳せながら、そのようなことを考えるのでございます。

時に令和7年、春。
西の果て、長崎は県北の地に、一つの看板が立ちました。
すぐさま大きな反響があったなんてことはもちろんない。
大海原に、ほんの小さな水滴が落ちた程度のものでございます。

この水滴はどのような、波を生み出すのか。

これからの生はいずこへいくや。

長々語るも無粋なり。

全7回にわたりました税理士受験期、以上もちまして、読み終わりでございます。

あとがきという名の、余談

えー、ここだけの話でございますが。
先ほどの、やよい軒にいた大学生の話。
あの青年、1,000円もするステーキ定食を頼んでおきながら、おかわりをたったの一杯しかしておりませんでした。
600円のしょうが焼き定食で、3杯もおかわりをしていたこの男とは、やはり、根本的に相容れないものがあったのかもしれませぬ。

そして、最後に。 この男が肝に銘じていること。
「難関資格に合格したなんてのは、所詮ペーパーテストで高い点を取ったという、ただそれだけのことに過ぎない。世の中に、一円の付加価値も生み出しちゃいない」
登り切った山の道のりを振り返り、「いやぁ、この道は険しかった」などと吹聴して回るのは程々にして、次の山を登り始めよう。

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以上で、全7回にわたりました税理士受験期は終了となります。
私も税理士試験の勉強中は、多くの先輩方の合格体験記などを読んで、モチベーションを維持しておりました。
私の体験が、多くの税理士受験生の一助となれば幸いです。
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