「推し」ではなく「推しの推し」を狙え?ケインズに学ぶ思考法

こんにちは、税理士の北野です。

突然ですが、皆さんにクイズです。

「ここに100枚の写真があります。100枚の女性の写真の中から、最も美人だと思う人を選んでください。投票が可能なのは、日本国民全員です。最も投票が多かった人に投票した人達で賞金1億円を山分けします!」

さて、あなたなら誰を選びますか? 「自分のタイプの女性」を選んだあなた。
……残念ながら、それではこのゲームには勝てません。

今日は、20世紀最高の経済学者ケインズが提唱した、投資とビジネスの極意「美人投票」、そしてその進化系である「平均値の2/3を当てるゲーム」を題材に、経営のヒントを探ってみましょう。

「自分の好み」は一ミリも関係ない

ケインズが描いたシナリオをもう少し丁寧に説明します。

美人投票のゲームで賞金を手にするには、「自分が最も美しいと思う人」を選んでもいけないし、「客観的に見て最も美しい人」を選ぶ必要もありません。「他の参加者全員が、誰を最も美しいと思うか」を当てなければならないのです。

ケインズはこの構造を、そのまま株式市場に重ねました。株価を動かすのは企業の「実力」ではなく、投資家たちの人気の読み合いだと。優良企業の株が安く放置され、赤字企業の株が熱狂的に買われる——そんな現象が起きるのは、この心理戦が数字の論理を超えたところで働いているからです。

人間の思考はおおよそ3つのレベルに分けられます。

レベル思考の内容具体的なイメージ
Lv.1自分の好みで選ぶ「私はショートカットが好きだから、この人!」
Lv.2世間の平均的な好みを予想する「今は清楚系が流行っているから、この人だろう」
Lv.3「世間が予想する世間の好み」を先読みする「みんな清楚系を選ぶと考えるはず。だからあえて……」

株式投資も、この構造と同じです。
「自分が好き」ではなく「みんなが『みんなが好き』だと思っているもの」を当てるゲーム。これが、ケインズの言う投資の本質でした。


さらにエグい心理戦 ── 平均値の2/3ゲーム

美人投票の構造をより精密にモデル化した思考実験が、行動経済学の世界でよく使われる「平均値の2/3ゲーム」です。

ルールはシンプル。

参加者全員が0〜100の整数をひとつ選ぶ。全員の平均値の「2/3」に最も近い数字を選んだ人が優勝。

あなたなら何を書きますか?

「論理的」に考えようとすると、こんな深読みのループに入ります。

第1段階 みんな適当に選ぶなら平均は50。その2/3だから 「33」 だ。

第2段階 いや待てよ。みんな同じことを考えるなら平均は33。その2/3は 「22」 だ。

第3段階 さらに待て。みんなが22と読むなら、その2/3の 「14」 が正解だ……。

この読み合いを無限に繰り返すと、理論上の最終解は 「0」 に行き着きます。全員が完璧に合理的なら全員が0を選び、平均0の2/3も0になる。ゲーム理論でいう「ナッシュ均衡」です。

ところが、実際にこのゲームをやってみると、優勝者の数字はほぼ例外なく 「20〜30」 の範囲に収まります。なぜか。

「世の中には、そこまで深く考えない人が必ずいる」からです。

どれだけ完璧な理論(答え=0)を持っていても、他の参加者が「第1段階(33)」で思考を止めていれば、0を書いた人は大きく外れて負ける。
「正しすぎること」は、時として市場から孤立することと同義なのです。

思考の深さ選ぶ数字状態
考えない50付近直感・ランダム
1段階33付近「みんな普通に考えるだろう」と予想
2段階22付近「みんな裏をかくだろう」と予想
無限0理論上の正解(でも現実では負ける)

経営の現場に潜む「美人投票の罠」

「株の話でしょ?うちの経営には関係ない」——そう思ったとしたら、実はそれが一番危険なサインかもしれません。経営の現場こそ、美人投票の罠があちこちに仕掛けられています。

トレンドには「乗り方」がある

数年前のタピオカブームを思い出してください。「自分が美味しいと思うから」参入した人はLv.1。「みんなが好きそうだから」参入した人はLv.2。そして「みんなが『今タピオカをやれば儲かる』と信じている空気」を察知して、ブームの天井で売却撤退した人がLv.3の勝者です。

「流行に乗ること」自体は悪くない。ただし、自分が今どのレベルの判断をしているかを自覚しているかどうかが、生死を分けます。

「節税の流行」にも美人投票がある

「みんながやっているから」という理由で節税策に飛びつくのは、典型的なLv.2の思考です。
税制は毎年動きます。「みんながやり始めた頃」には当局の目はすでに向いており、制度変更で梯子を外されるリスクが静かに高まっています。
節税の世界にも美人投票のサイクルがあります。旬を過ぎた策を「まだみんなやってるから」と続けることは危険です。

「早すぎる正解」も負けのうち

画期的なサービスを思いついたとします。理論上(ゲームで言えば「0」)は完璧でも、市場がまだ「33」や「50」の段階にいるなら、そのサービスは「理解不能なもの」として静かに散ります。経営で大切なのは正解を持つことではなく、「今、市場がどの段階にいるかを把握して、半歩先を歩くこと」です。

「すっぴんの数字」を手放さないこと

美人投票も、2/3ゲームも、最後に教えてくれることは同じです。

賢すぎるのは、愚かなのと変わらない。勝つのは、常に「半歩先」を歩く人だ。

市場の熱狂に合わせて動く柔軟性は必要です。
「うちの会社の本当の利益はいくらか」「キャッシュは今どこにあるか」という、化粧を落とした後のリアルな数字を把握していなければ、バブルが弾けた瞬間に足をすくわれます。
私はこれを「すっぴんの成績表を持っておく」と呼んでいます。

周りの空気や流行に乗りながらも、手元には常にすっぴんの数字を持っている。そういう経営者が、長い目で見たとき、確実に強い。


最後に

「今のトレンドに乗るべきか、地道にいくべきか」「この節税策、今もまだ有効か」「うちのビジネス、市場の空気とズレていないか」

そういった経営判断に迷ったとき、ぜひ一度お話しください。

世間という「美人投票」の波を読みながら、あなたの会社の本質的な価値を数字で守り抜く。そんなパートナーでありたいと思っています。

流行に流されず、流行を活用する。数字の力で、攻めの経営を。

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